2019年7月28日日曜日

「高校・大学・会社での連続的なキャリア形成」を考える

キャリアデザインプログラム運営委員の小山健太です。

東京経済大学では間もなくオープンキャンパスが開催されます。キャリアデザインプログラムでは、説明会、ワークショップ体験、個別相談を実施します。多くの高校生の皆さんとキャンパスでお会いできることを楽しみにしています!

そこで、今回のブログ記事では、高校生の皆さんにぜひ読んでほしい内容をお届けします。



キャリアデザインプログラムでは、高校生や高校教員を主たる対象として、キャリアデザイン・フォーラム2019「主体性を引き出すキャリア教育 ~高校・大学・会社での連続的なキャリア形成」を2019年5月18日(土)に開催しました。

本フォーラムにご来場いただいた皆様、どうもありがとうございました。来場者アンケートでは、非常に高評価をいただき、高校生からは「今後の人生に生かせることが学べました」、高校教員からは「我が校にも今回の内容を活かしていきたいと思いました」などの感想をいただきました。

少し時間が空いてしまいましたが、以下ではこのフォーラムについて紹介します。


プログラム(表)
プログラム(裏)

さて、まずは本フォーラムを企画した趣旨から説明したいと思います。現在、高校においてもキャリア教育は普及してきています。ただ、大学進学後や就職後のキャリア形成も視野に入れたキャリア教育の実践は、緒に就いたばかりだと思います。

若者にとって高校・大学・入社後という各時期は初期キャリア形成の重要な期間です。ですが、それぞれの時期でキャリア形成を支援する教員や企業人事・上司の視点が、必ずしも同じではないかもしれない。このような問題意識から本フォーラムは企画されました。

それぞれの時期を通じて、キャリア形成支援の共通理念とすべきは「主体性を引き出す」ということではないでしょうか。そこで、本フォーラムでは、「主体性を引き出すキャリア教育」というテーマのもと、「高校・大学・会社での連続的なキャリア形成」について、高校生や高校教員の皆様と考える機会としました。

まず、基調講演では、板谷和代先生(東京経済大学キャリアデザインプログラム客員教授)が「企業の人材育成の視点で考えるキャリア教育」について話しました。ものすごいスピードで変化する時代において重要なのは、自身の「思い」や「強み」をしっかりと自分で認識したうえで、変化に対応していくために、自分を成長させ続ける力。そして、自分を成長させるためには、他者との関係性が重要であり、「関係の質」を高めていくことが大切だと語りました。

特別講演では、小林利恵子氏(株式会社オプンラボ代表取締役)から「楽しく働く大人と高校生との対話型キャリア教育~近未来ハイスクール~」というテーマでお話をしていだきました。近未来ハイスクールでは、「エッジのたったプロ、変わり続ける人、変化を起こす人」のことを褒め言葉として「変人」と呼び、高校生が様々な「変人」と対話する取り組みを多くの高校で展開しています。高校生は「変人」との対話を通じて、多様な人を受け入れ、自分の個性も受け入れるようになる。そして、働くことの楽しさを感じ、大人になることにワクワクするようになり、自分の未来に向けて新しい行動をしようと思えるようになるとのことでした。

つづいて、小山からは「新理論にもとづいたキャリアデザイン授業」を紹介しました。以前のキャリア理論では、キャリアデザインとは「将来の目標を明確に決めて、それを実現するためのプロセスを合理的に計画すること」でした。しかし、変化が激しい時代においては、一度決めた目標にこだわり続けることの方がリスクが高い。そこで、新しいキャリア理論では、キャリアデザインとは「自分を成長させるための”一歩の踏み出し”を計画すること」だとされています。つまり、結果がどうなるか分からなくても「一歩の踏み出し」を計画して実行する。そして、その結果生じたことを、自分の成長に活かす。たとえ失敗したとしても、そこから学習して、また新しい「一歩の踏み出し」を計画して実行する。この連続です。以前のキャリア論では「目標の達成」が重視されていましたが、新しいキャリア理論では「継続的な学習・成長」が重視されています。最後に、高校でのキャリア教育への応用例として、「一歩の踏み出し」をデザインするためのワークシートを紹介しました。

そして、キャリアデザインプログラムの学生からも、「私たちが考えるキャリアとは」というテーマで発表しました。発表したのは、キャリアデザインプログラム1期生(現コミュニケーション学部3年)の加藤美香さん、糸日谷しおりさんです。二人は、キャリアデザインプログラムの学生団体「TKU Unlimited」の中心メンバーでもあり、今では主体的に行動していますが、入学当初は受け身だったそうです。当初は「自分の興味のあることが分からない」「自分の夢なんか分からない」「授業を義務感で受けることも多かった」といいます。
しかし、キャリアデザインプログラムが提供する様々な機会、例えばキャリアデザイン・ワークショップ、ジョブシャドウイング、大倉進一層キャリア塾などを通じて、少しずつ自分を変えることができたそうです。二人がいま考えているキャリアデザインのキーポイントは、① 大きなゴールを定めるのではなく、短期の成長実感が大切!②「やったことない」ことをやってみる!③キャリアは一人で作っていくものではない。挑戦するには仲間が必要! とのことでした。

最後には、発表者5人と来場者との意見交換も行われ、高校・大学・会社でのキャリア形成を「主体性」という軸で統合的に考える重要性が、さまざまな観点から浮かび上がってきました。


発表者全員のメッセージに共通していたと私が感じたことは、①継続的な成長②自分らしいチャレンジ③成長を支えて見守る”伴走者”の存在でした。高校・大学・会社でのキャリア教育・支援の際に、こういう観点を意識することで、一人一人の若者の主体的で自分らしいキャリア形成を支援できるのではないでしょうか。「人生100年時代」ともいわれる今、一人一人が生涯現役で自分のキャリアを自分で切り拓くことが必要であり、またキャリア形成を支援する側の重要性もますます高まっていくでしょう。

キャリアデザインプログラムでは、今回のような高校生や高校教員対象のイベントを今後も開催していきたいと考えています。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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2019年3月28日木曜日

【学問のミカタ】ジョブシャドウイングは「観察学習」のキャリア教育プログラム

キャリアデザインプログラム運営委員の小山健太です。

キャリアデザインプログラムでは、1年生対象に夏休みに「ジョブシャドウイング」を実施しています。ジョブシャドウイングは、社会人の日常に1日付き添って観察するキャリア教育プログラムです。職場で働く姿を観たり、仕事で大切にしていることを聴いたりすることで、『働くこと』について前向きな意欲を持つことを目指します。

2018年度は、以下の企業・団体の皆様にご協力をいただき、実施することができました。この場を借りて御礼申し上げます。

事前学習会・事後学習会は、NPO法人JUKEの皆さんとワークショップ形式で実施

ジョブシャドウイングはアメリカで広く普及しているキャリア教育プログラムです。ただし、前回の「学問のミカタ」で説明した通り、日本企業で働くためには「入社活動」が必要となります。そこで、個別のジョブ(職務)を理解することよりも、どのようなジョブをすることになっても必要となる「働く姿勢」「仕事への向き合い方」などの「働くことの価値観」を学習することが重要です。キャリア教育についての国レベルの文書でも「勤労観・職業観」という用語がよく登場し、働くことの価値観を学習することが重視されています(例えば、中央教育審議会答申(2011)「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育のあり方について」)。

そこで、キャリアデザインプログラムで実施するジョブシャドウイングでは、個別のジョブの理解ではなく、働くことの価値観を考えることを目的にしています。これは、他のキャリア教育プログラム(例えば、インターンシップや、一般的な職場体験学習)の目的とも異なるものだと思います。

実際、ジョブシャドウイングに参加した学生の感想では、働くことの価値観に関することが多く語られます。例えば、次の通りです。

●企業訪問当日に一番感じたことは、働いていらっしゃる皆さんがとてもイキイキとそして楽しそうに働いていて、仕事について「つらい」「大変」というイメージしかなかった私にはすごく新鮮だった
●私は初め、働く目的は「お金」のためだけだと考えていた。ジョブシャドウイングを経験して、仕事を通じてしか得られない楽しみや充実感を感じるためには「成長」することが必要であり、「成長」するためには仕事に対して一所懸命に楽しく取り組むことが重要だと気づいた。そして、楽しみや充実感を感じるためには「自分のやりがい」となるものを見つける必要があると感じた
●自分にとっての働く目的は「社会のため」だと考えるようになった。自分は自分自身のために働くというよりは、誰かのためになる仕事を将来したい。社会のため、誰かのために働くことが自己実現にもなると考えている

実は、ジョブシャドウイングは事前学習会・企業団体訪問・事後報告会の計3日間だけのプログラムです。このような短期間のプログラムで、参加学生の価値観が拡がるのはどうしてなのでしょうか。そこで、私は研究として、ジョブシャドウイングに参加した学生にインタビュー調査をしています。その結果は、いつか論文にまとめて発表したいと思いますが、ここでは調査から見えてきたことの一部を簡単に紹介します。

ジョブシャドウイングの特徴は、(1)社会人の実際の仕事ぶりを「観察」すること、(2)その場で社会人に質問をしたりして「言語コミュニケーション」をとることです。そして、この2つがセットになっていることが大切です。

バンデューラという、観察学習の分野で(も)有名な研究者がいます。バンデューラによると、観察対象が複雑なものである場合、「観察」による学習効果を高めるためには、観察対象と「言語コミュニケーション」をとることが必要だと述べています。

勤労観や職業観は、「唯一の答え」があるわけではなく、一人ひとりが自分なりの価値観を見い出すことが大切です。それは、言い方をかえると、抽象度が高くて複雑な学習だということです。ですが、ジョブシャドウイングでは、実際の仕事ぶりの「観察」と社会人との「言語コミュニケーション」がセットになっているために、短期間のプログラムであっても、学生は勤労観や職業観を学習することができ、価値観を拡げられるのだと、私は考えています。
ちなみに、事前学習会では、訪問先で質問したいことをできるだけ多く書き出します。その準備があるので、学生は社会人と深いレベルで言語コミュニケーションをとることができるのだと思います。

(なお、インタビュー調査からは、ジョブシャドウイングの学習効果の要因はこれ以外にもあると感じています。)

そして、参加学生からのよく聞く感想がもう1つあります。それは、「ジョブシャドウイングに参加する前に、学べることを具体的にイメージできない」ということです(笑)。自分なりの価値観を見い出す個別性の高い学習ですから、それは仕方のないことでもあります。

もうすぐ、キャリアデザインプログラム3期生が入学します。2019年度も、3期生の皆さんのためにジョブシャドウイングを実施します。参加後の学生の満足度がとても高いことは確かですので、ぜひ多くの3期生が初年次の夏休みにジョブシャドウイングに参加することを期待しています!

ジョブシャドウイング参加学生と、NPO法人JUKEの皆さん


【学問のミカタ】
東京経済大学では、各学部で高校生向けに分かり易く専門分野の教員がブログを公開しています。ぜひご覧ください
・経済学部「東京一極集中とは
・経営学部「ピークですね (T_T)
・コミュニケーション学部「「コミュニケーション学」の海へ漕ぎだすために
・全学共通教育センター「論文執筆と翻訳と