2019年3月28日木曜日

【学問のミカタ】ジョブシャドウイングは「観察学習」のキャリア教育プログラム

キャリアデザインプログラム運営委員の小山健太です。

キャリアデザインプログラムでは、1年生対象に夏休みに「ジョブシャドウイング」を実施しています。ジョブシャドウイングは、社会人の日常に1日付き添って観察するキャリア教育プログラムです。職場で働く姿を観たり、仕事で大切にしていることを聴いたりすることで、『働くこと』について前向きな意欲を持つことを目指します。

2018年度は、以下の企業・団体の皆様にご協力をいただき、実施することができました。この場を借りて御礼申し上げます。

事前学習会・事後学習会は、NPO法人JUKEの皆さんとワークショップ形式で実施

ジョブシャドウイングはアメリカで広く普及しているキャリア教育プログラムです。ただし、前回の「学問のミカタ」で説明した通り、日本企業で働くためには「入社活動」が必要となります。そこで、個別のジョブ(職務)を理解することよりも、どのようなジョブをすることになっても必要となる「働く姿勢」「仕事への向き合い方」などの「働くことの価値観」を学習することが重要です。キャリア教育についての国レベルの文書でも「勤労観・職業観」という用語がよく登場し、働くことの価値観を学習することが重視されています(例えば、中央教育審議会答申(2011)「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育のあり方について」)。

そこで、キャリアデザインプログラムで実施するジョブシャドウイングでは、個別のジョブの理解ではなく、働くことの価値観を考えることを目的にしています。これは、他のキャリア教育プログラム(例えば、インターンシップや、一般的な職場体験学習)の目的とも異なるものだと思います。

実際、ジョブシャドウイングに参加した学生の感想では、働くことの価値観に関することが多く語られます。例えば、次の通りです。

●企業訪問当日に一番感じたことは、働いていらっしゃる皆さんがとてもイキイキとそして楽しそうに働いていて、仕事について「つらい」「大変」というイメージしかなかった私にはすごく新鮮だった
●私は初め、働く目的は「お金」のためだけだと考えていた。ジョブシャドウイングを経験して、仕事を通じてしか得られない楽しみや充実感を感じるためには「成長」することが必要であり、「成長」するためには仕事に対して一所懸命に楽しく取り組むことが重要だと気づいた。そして、楽しみや充実感を感じるためには「自分のやりがい」となるものを見つける必要があると感じた
●自分にとっての働く目的は「社会のため」だと考えるようになった。自分は自分自身のために働くというよりは、誰かのためになる仕事を将来したい。社会のため、誰かのために働くことが自己実現にもなると考えている

実は、ジョブシャドウイングは事前学習会・企業団体訪問・事後報告会の計3日間だけのプログラムです。このような短期間のプログラムで、参加学生の価値観が拡がるのはどうしてなのでしょうか。そこで、私は研究として、ジョブシャドウイングに参加した学生にインタビュー調査をしています。その結果は、いつか論文にまとめて発表したいと思いますが、ここでは調査から見えてきたことの一部を簡単に紹介します。

ジョブシャドウイングの特徴は、(1)社会人の実際の仕事ぶりを「観察」すること、(2)その場で社会人に質問をしたりして「言語コミュニケーション」をとることです。そして、この2つがセットになっていることが大切です。

バンデューラという、観察学習の分野で(も)有名な研究者がいます。バンデューラによると、観察対象が複雑なものである場合、「観察」による学習効果を高めるためには、観察対象と「言語コミュニケーション」をとることが必要だと述べています。

勤労観や職業観は、「唯一の答え」があるわけではなく、一人ひとりが自分なりの価値観を見い出すことが大切です。それは、言い方をかえると、抽象度が高くて複雑な学習だということです。ですが、ジョブシャドウイングでは、実際の仕事ぶりの「観察」と社会人との「言語コミュニケーション」がセットになっているために、短期間のプログラムであっても、学生は勤労観や職業観を学習することができ、価値観を拡げられるのだと、私は考えています。
ちなみに、事前学習会では、訪問先で質問したいことをできるだけ多く書き出します。その準備があるので、学生は社会人と深いレベルで言語コミュニケーションをとることができるのだと思います。

(なお、インタビュー調査からは、ジョブシャドウイングの学習効果の要因はこれ以外にもあると感じています。)

そして、参加学生からのよく聞く感想がもう1つあります。それは、「ジョブシャドウイングに参加する前に、学べることを具体的にイメージできない」ということです(笑)。自分なりの価値観を見い出す個別性の高い学習ですから、それは仕方のないことでもあります。

もうすぐ、キャリアデザインプログラム3期生が入学します。2019年度も、3期生の皆さんのためにジョブシャドウイングを実施します。参加後の学生の満足度がとても高いことは確かですので、ぜひ多くの3期生が初年次の夏休みにジョブシャドウイングに参加することを期待しています!

ジョブシャドウイング参加学生と、NPO法人JUKEの皆さん


【学問のミカタ】
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