2019年7月28日日曜日

「高校・大学・会社での連続的なキャリア形成」を考える

キャリアデザインプログラム運営委員の小山健太です。

東京経済大学では間もなくオープンキャンパスが開催されます。キャリアデザインプログラムでは、説明会、ワークショップ体験、個別相談を実施します。多くの高校生の皆さんとキャンパスでお会いできることを楽しみにしています!

そこで、今回のブログ記事では、高校生の皆さんにぜひ読んでほしい内容をお届けします。



キャリアデザインプログラムでは、高校生や高校教員を主たる対象として、キャリアデザイン・フォーラム2019「主体性を引き出すキャリア教育 ~高校・大学・会社での連続的なキャリア形成」を2019年5月18日(土)に開催しました。

本フォーラムにご来場いただいた皆様、どうもありがとうございました。来場者アンケートでは、非常に高評価をいただき、高校生からは「今後の人生に生かせることが学べました」、高校教員からは「我が校にも今回の内容を活かしていきたいと思いました」などの感想をいただきました。

少し時間が空いてしまいましたが、以下ではこのフォーラムについて紹介します。


プログラム(表)
プログラム(裏)

さて、まずは本フォーラムを企画した趣旨から説明したいと思います。現在、高校においてもキャリア教育は普及してきています。ただ、大学進学後や就職後のキャリア形成も視野に入れたキャリア教育の実践は、緒に就いたばかりだと思います。

若者にとって高校・大学・入社後という各時期は初期キャリア形成の重要な期間です。ですが、それぞれの時期でキャリア形成を支援する教員や企業人事・上司の視点が、必ずしも同じではないかもしれない。このような問題意識から本フォーラムは企画されました。

それぞれの時期を通じて、キャリア形成支援の共通理念とすべきは「主体性を引き出す」ということではないでしょうか。そこで、本フォーラムでは、「主体性を引き出すキャリア教育」というテーマのもと、「高校・大学・会社での連続的なキャリア形成」について、高校生や高校教員の皆様と考える機会としました。

まず、基調講演では、板谷和代先生(東京経済大学キャリアデザインプログラム客員教授)が「企業の人材育成の視点で考えるキャリア教育」について話しました。ものすごいスピードで変化する時代において重要なのは、自身の「思い」や「強み」をしっかりと自分で認識したうえで、変化に対応していくために、自分を成長させ続ける力。そして、自分を成長させるためには、他者との関係性が重要であり、「関係の質」を高めていくことが大切だと語りました。

特別講演では、小林利恵子氏(株式会社オプンラボ代表取締役)から「楽しく働く大人と高校生との対話型キャリア教育~近未来ハイスクール~」というテーマでお話をしていだきました。近未来ハイスクールでは、「エッジのたったプロ、変わり続ける人、変化を起こす人」のことを褒め言葉として「変人」と呼び、高校生が様々な「変人」と対話する取り組みを多くの高校で展開しています。高校生は「変人」との対話を通じて、多様な人を受け入れ、自分の個性も受け入れるようになる。そして、働くことの楽しさを感じ、大人になることにワクワクするようになり、自分の未来に向けて新しい行動をしようと思えるようになるとのことでした。

つづいて、小山からは「新理論にもとづいたキャリアデザイン授業」を紹介しました。以前のキャリア理論では、キャリアデザインとは「将来の目標を明確に決めて、それを実現するためのプロセスを合理的に計画すること」でした。しかし、変化が激しい時代においては、一度決めた目標にこだわり続けることの方がリスクが高い。そこで、新しいキャリア理論では、キャリアデザインとは「自分を成長させるための”一歩の踏み出し”を計画すること」だとされています。つまり、結果がどうなるか分からなくても「一歩の踏み出し」を計画して実行する。そして、その結果生じたことを、自分の成長に活かす。たとえ失敗したとしても、そこから学習して、また新しい「一歩の踏み出し」を計画して実行する。この連続です。以前のキャリア論では「目標の達成」が重視されていましたが、新しいキャリア理論では「継続的な学習・成長」が重視されています。最後に、高校でのキャリア教育への応用例として、「一歩の踏み出し」をデザインするためのワークシートを紹介しました。

そして、キャリアデザインプログラムの学生からも、「私たちが考えるキャリアとは」というテーマで発表しました。発表したのは、キャリアデザインプログラム1期生(現コミュニケーション学部3年)の加藤美香さん、糸日谷しおりさんです。二人は、キャリアデザインプログラムの学生団体「TKU Unlimited」の中心メンバーでもあり、今では主体的に行動していますが、入学当初は受け身だったそうです。当初は「自分の興味のあることが分からない」「自分の夢なんか分からない」「授業を義務感で受けることも多かった」といいます。
しかし、キャリアデザインプログラムが提供する様々な機会、例えばキャリアデザイン・ワークショップ、ジョブシャドウイング、大倉進一層キャリア塾などを通じて、少しずつ自分を変えることができたそうです。二人がいま考えているキャリアデザインのキーポイントは、① 大きなゴールを定めるのではなく、短期の成長実感が大切!②「やったことない」ことをやってみる!③キャリアは一人で作っていくものではない。挑戦するには仲間が必要! とのことでした。

最後には、発表者5人と来場者との意見交換も行われ、高校・大学・会社でのキャリア形成を「主体性」という軸で統合的に考える重要性が、さまざまな観点から浮かび上がってきました。


発表者全員のメッセージに共通していたと私が感じたことは、①継続的な成長②自分らしいチャレンジ③成長を支えて見守る”伴走者”の存在でした。高校・大学・会社でのキャリア教育・支援の際に、こういう観点を意識することで、一人一人の若者の主体的で自分らしいキャリア形成を支援できるのではないでしょうか。「人生100年時代」ともいわれる今、一人一人が生涯現役で自分のキャリアを自分で切り拓くことが必要であり、またキャリア形成を支援する側の重要性もますます高まっていくでしょう。

キャリアデザインプログラムでは、今回のような高校生や高校教員対象のイベントを今後も開催していきたいと考えています。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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2019年3月28日木曜日

【学問のミカタ】ジョブシャドウイングは「観察学習」のキャリア教育プログラム

キャリアデザインプログラム運営委員の小山健太です。

キャリアデザインプログラムでは、1年生対象に夏休みに「ジョブシャドウイング」を実施しています。ジョブシャドウイングは、社会人の日常に1日付き添って観察するキャリア教育プログラムです。職場で働く姿を観たり、仕事で大切にしていることを聴いたりすることで、『働くこと』について前向きな意欲を持つことを目指します。

2018年度は、以下の企業・団体の皆様にご協力をいただき、実施することができました。この場を借りて御礼申し上げます。

事前学習会・事後学習会は、NPO法人JUKEの皆さんとワークショップ形式で実施

ジョブシャドウイングはアメリカで広く普及しているキャリア教育プログラムです。ただし、前回の「学問のミカタ」で説明した通り、日本企業で働くためには「入社活動」が必要となります。そこで、個別のジョブ(職務)を理解することよりも、どのようなジョブをすることになっても必要となる「働く姿勢」「仕事への向き合い方」などの「働くことの価値観」を学習することが重要です。キャリア教育についての国レベルの文書でも「勤労観・職業観」という用語がよく登場し、働くことの価値観を学習することが重視されています(例えば、中央教育審議会答申(2011)「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育のあり方について」)。

そこで、キャリアデザインプログラムで実施するジョブシャドウイングでは、個別のジョブの理解ではなく、働くことの価値観を考えることを目的にしています。これは、他のキャリア教育プログラム(例えば、インターンシップや、一般的な職場体験学習)の目的とも異なるものだと思います。

実際、ジョブシャドウイングに参加した学生の感想では、働くことの価値観に関することが多く語られます。例えば、次の通りです。

●企業訪問当日に一番感じたことは、働いていらっしゃる皆さんがとてもイキイキとそして楽しそうに働いていて、仕事について「つらい」「大変」というイメージしかなかった私にはすごく新鮮だった
●私は初め、働く目的は「お金」のためだけだと考えていた。ジョブシャドウイングを経験して、仕事を通じてしか得られない楽しみや充実感を感じるためには「成長」することが必要であり、「成長」するためには仕事に対して一所懸命に楽しく取り組むことが重要だと気づいた。そして、楽しみや充実感を感じるためには「自分のやりがい」となるものを見つける必要があると感じた
●自分にとっての働く目的は「社会のため」だと考えるようになった。自分は自分自身のために働くというよりは、誰かのためになる仕事を将来したい。社会のため、誰かのために働くことが自己実現にもなると考えている

実は、ジョブシャドウイングは事前学習会・企業団体訪問・事後報告会の計3日間だけのプログラムです。このような短期間のプログラムで、参加学生の価値観が拡がるのはどうしてなのでしょうか。そこで、私は研究として、ジョブシャドウイングに参加した学生にインタビュー調査をしています。その結果は、いつか論文にまとめて発表したいと思いますが、ここでは調査から見えてきたことの一部を簡単に紹介します。

ジョブシャドウイングの特徴は、(1)社会人の実際の仕事ぶりを「観察」すること、(2)その場で社会人に質問をしたりして「言語コミュニケーション」をとることです。そして、この2つがセットになっていることが大切です。

バンデューラという、観察学習の分野で(も)有名な研究者がいます。バンデューラによると、観察対象が複雑なものである場合、「観察」による学習効果を高めるためには、観察対象と「言語コミュニケーション」をとることが必要だと述べています。

勤労観や職業観は、「唯一の答え」があるわけではなく、一人ひとりが自分なりの価値観を見い出すことが大切です。それは、言い方をかえると、抽象度が高くて複雑な学習だということです。ですが、ジョブシャドウイングでは、実際の仕事ぶりの「観察」と社会人との「言語コミュニケーション」がセットになっているために、短期間のプログラムであっても、学生は勤労観や職業観を学習することができ、価値観を拡げられるのだと、私は考えています。
ちなみに、事前学習会では、訪問先で質問したいことをできるだけ多く書き出します。その準備があるので、学生は社会人と深いレベルで言語コミュニケーションをとることができるのだと思います。

(なお、インタビュー調査からは、ジョブシャドウイングの学習効果の要因はこれ以外にもあると感じています。)

そして、参加学生からのよく聞く感想がもう1つあります。それは、「ジョブシャドウイングに参加する前に、学べることを具体的にイメージできない」ということです(笑)。自分なりの価値観を見い出す個別性の高い学習ですから、それは仕方のないことでもあります。

もうすぐ、キャリアデザインプログラム3期生が入学します。2019年度も、3期生の皆さんのためにジョブシャドウイングを実施します。参加後の学生の満足度がとても高いことは確かですので、ぜひ多くの3期生が初年次の夏休みにジョブシャドウイングに参加することを期待しています!

ジョブシャドウイング参加学生と、NPO法人JUKEの皆さん


【学問のミカタ】
東京経済大学では、各学部で高校生向けに分かり易く専門分野の教員がブログを公開しています。ぜひご覧ください
・経済学部「東京一極集中とは
・経営学部「ピークですね (T_T)
・コミュニケーション学部「「コミュニケーション学」の海へ漕ぎだすために
・全学共通教育センター「論文執筆と翻訳と

2018年11月2日金曜日

学生が企画運営したシンポジウム「AI時代を生き抜くキャリアデザイン」

キャリアデザインプログラム運営委員の小山健太です。

東京経済大学キャリアデザインプログラム(以下、CDP)とCDP生で構成される学生団体 TKU Unlimitedは、Google Womenwillの理念に賛同し昨年度から活動を展開しています。

2018年10月13日(土)に、CDP with Google Womenwillシンポジウム『AI時代を生き抜くキャリアデザイン』を、本学国分寺キャンパス、大倉喜八郎 進一層館(フォワードホール)で開催しました。(主催:東京経済大学キャリアデザインプログラム、学生団体TKU Unlimited、協力:Google Womenwill)

来場くださった皆様、そして、ご協力いただいた岸田明理様(グーグル合同会社ブランドマーケティング Womenwill プロジェクトマネージャー)、本当にありがとうございました。

さて、このシンポジウムは、TKU UnlimitedのメンバーであるCDP生が主体的に企画、運営したものです。CDPは2017年度スタートですので、現時点のTKU Unlimitedメンバーは1・2年生のみです。
シンポジウムの報告は学生たちから近々発信されますので、私からは学生をサポートしてきた立場として感想をお伝えします。

シンポジウムを企画運営したTKU Unlimitedメンバー

このシンポジウムの企画は、今年5月30日に開催したCDP with Google Womenwillワークショップ『AI時代を生き抜くキャリアデザイン』がきっかけで始まりました。ワークショップでは、Womenwillプロジェクトマネージャーの岸田様にお越しいただいて、AI(人工知能)やテクノロジーが自分たちの身近に既に使われていて、仕事でもそうした新しい技術を活用することで様々な可能性があることを学生たちは学びました。

そうした「テクノロジーを活用した働き方」と、TKU Unlimitedが昨年度からテーマにしている「育児と仕事の両立」が結びついて、学生たちからのアイディアで今回のシンポジウムが企画されました。学生たちが作ったシンポジウムのチラシには、以下の呼びかけが掲載されました。

学生による学生のための未来の働き方を考えるシンポジウム ”集まれ!育児と仕事の両方に興味のある学生!”
子育てをしっかりやりたい!自分のキャリアも充実させたい!でも育児休暇や仕事を早退してしまうと、仕事仲間やチームに迷惑がかかってしまう・・・
育児や家事をしながら仕事続ける方法、仕事復帰がしやすくなる方法は無いのだろうか・・・? 
そこにテクノロジーが加わることによって育児中の社員もチームの一員として役割を持って働くことができるはず!このシンポジウムで、一緒にテクノロジーを活用した新しい働き方を考えて見ませんか?

実は、このシンポジウムの企画準備の段階で、TKU Unlimitedメンバー自身が、テクノロジーを大いに活用したことで、「仕事」の効率と質が向上しました。
最近の学生は様々な活動をしているので、とても忙しい!そこで、オンラインツールを使って、テレビ会議でミーティングをしたり、文書やスライドを作成したことで、プロジェクトをどんどん前に進めることができました。でも、Face to Faceのミーティングで、メンバー間で方向性の擦り合わせをすることも大切にしました。

そして、シンポジウム当日は、Womenwillプロジェクトマネージャーの岸田様からの基調講演のあと、そうした学生たち自身が「新しい働き方」に取り組んだ実践報告をしました。

また、シンポジウムでは、来場者参加型のワークショップもしました。私としても、このワークショップはとても興味深かったったです!TKU Unlimitedメンバーの進行のもと、来場者から抽選で3人の学生が選ばれ、キャンパス内の別々の教室に分かれて、オンラインツールを使って共同作業に取り組みました。しかも、そのオンラインでの共同作業に、現在オーストラリアに留学中のTKU Unlimitedメンバーも参加しました!

オンラインで共同作業をしている様子(来場者参加型ワークショップ)

シンポジウムの中でこうした来場者参加型のワークショップをすることになった背景には、学生たちが実際にオンラインツールを導入するプロセスで一番課題だったことは「オンラインツールを使い始める心理的ハードル」だったことがあります。でも、一度使い始めると簡単ですごく便利なことを、学生たちは経験しました。
そこで、テクノロジーを活用したチームワークがもっと広がるためには、自分たちと同じように「新しいツールを使い始めることに、なんとなく気が引けてしまう」という思いを持つ人に、実際にテクノロジーを体験できる機会を提供することが必要なのではないか。そういう学生たちの思いで、シンポジウムの場で来場者参加型のワークショップをすることになりました。

今回のシンポジウムで私が一番印象的だったのは、学生からの実践をともなった話題提供です。5月のワークショップ以降、学生たちがシンポジウムで伝えたいメッセージを自分たちで考え抜いて、磨き込んできたからこそ、大きなインパクトがあったように思います。
シンポジウムには、学生だけでなく社会人の方にもご参加いただきましたが、「とても勉強になりました。自分の会社でも使用して、どんな人でも働きやすい環境を作っていきたいと思います」という声もあり、反響が大きかったと感じています。

TKU Unlimitedのメンバーは、今回のシンポジウムを通じて、テクノロジーを活用した新しいチームワークの必要性と可能性に気づきました。私としては、学生たちが卒業後に、それぞれの職場で働き方を変えていく推進役になってくれることを期待しています。

とは言うものの、事前の広報・告知の努力や、1年生メンバーとの作業分担などいくつかの課題も残りました。今後、そうした課題を克服して、TKU Unlimitedの活動がさらに充実していくことを願っています。

2018年7月27日金曜日

【学問のミカタ】就職活動ではなく「入社活動」を!

キャリアデザインプログラム運営委員の小山健太です。私の専門がキャリア心理学、組織心理学ということもあり、キャリアデザインプログラムとして最初の「学問のミカタ」を私が担当することになりました。

さて、日本では多くの場合、「就職活動」ができません。

こう聞くと、高校生の皆さんや、就職活動にまだ取り組んでない大学生の皆さんは、驚くかもしれません。
でも、このメッセージは、私が担当しているキャリアデザインプログラムの授業「キャリアデザイン・ワークショップI」で必ず伝えている内容です。どういうことか、今回のブログで簡単にご紹介します。

まず、世界で一般的な採用方式は「ジョブ型」です。これは、個別のジョブ(職務)を前提に、そのジョブに必要な知識や能力を既に備えている人材を採用するというアプローチです。いわば適材適所の採用方法で、採用後も個別のジョブの範囲内で働くことになります(職務限定採用)。(参考図書:濱口桂一郎(2013)『若者と労働』中央公論新社)

「就職活動」は、英語ではjob hunting や job search などと表現されます。つまり、「ジョブに就く活動」ということです。ですから、就職活動とはジョブ型雇用のもとで必要となる活動なのです。

キャリアデザインプログラムでは、幅広い専門性を学習し、
また実践的なスキルを身につけられる機会がたくさんあります。

一方で、日本企業の場合はどうでしょうか。

多くの皆さんは、大学卒業後に企業で「正社員」として働くことを希望していると思います。この「正社員」という考え方は日本独特のものと言って差し支えないでしょう。

これまで多くの日本企業が、学卒者を「正社員」として採用し、長期的な雇用を(暗黙に)保障することによって、企業内で長期間育成するというアプローチをとってきました。
毎年一回、4月1日に多くの学卒者が正社員として入社する仕組みを「新卒一括採用」と呼びますが、これもまた日本独特のシステムで、現在でも多くの日本企業で取り組まれています。

新卒一括採用で入社した正社員は、様々な仕事を通じて、広範囲の知識・スキルを学習していくことが期待されています。企業の新卒採用ホームページを見ると、募集職種の表記が「事務系」や「技術系」などとなっていることがほとんどです。これは、企業内にたくさんある仕事を大ぐくりに区分し、あえて個別のジョブ(職務)を限定せずに採用しているということなのです。

このような入社型の採用方式をとっている日本企業の強みは「現場力」だと、私は考えています。石田英夫先生の著書『日本企業の国際人事管理』では、日本企業を他国の組織と比べて次のように説明しています。
「・・・末端の労働者を比べると、日本のほうが強いということになる。つまり、有能でやる気も旺盛な日本の労働者が、組織の情報を豊富に共有し、組織目標への貢献意欲をもちながら、自ら「考える」仕事ぶりによって、職場の問題解決に比較的大きな発言権を行使しており・・・ 」
(出所:石田英夫(1985) 『日本企業の国際人事管理』日本労働協会、p19)

つまり、日本企業の正社員には、あえて個別具体的な職務を限定せずに自ら考える余地を残すことで、全社的な視点をもちつつ、様々な専門能力を自ら学び、仕事において創意工夫することが期待されているのです。

このように、日本企業における採用方法は、世界で一般的なジョブ型とはまったく異なるのです。先ほどの濱口先生の著書『若者と労働』では、日本の採用方法を「入社型(メンバーシップ型)」と説明しています。つまり、新卒一括採用で「正社員」として入社し、入社後に様々な仕事を経験することによって成長していくことが求められるのです。
(日本企業がこのような世界的にみて独特な採用方式に至った歴史的経緯は、また別の機会で説明することにします)

それでは、「入社活動」では、企業側はどのような点を重視して採用をしているのでしょうか。

リクルートキャリア就職みらい研究所の『就職白書2018』によれば、「企業が採用基準で重視する項目」の1位は「人柄」、2位は「自社への熱意」、3位は「今後の可能性」です。この調査からも、多くの日本企業が、若手人材に、個別の専門スキルではなく全人的な素養(そのなかでも「様々な専門性を学ぶ姿勢」が特に重要だと私は考えています)や、入社後の成長、個別のジョブではなく全社的視点を期待していることがわかります。

ただし、これからの時代の「入社活動」は、1つの会社に自分の一生を捧げることを意味するわけではありません。今後は、長いライフキャリアのなかで転職(これも日本の場合、実際には「転社」です)を経験する人も増えると思います。その場合でも、やはり転職先の新しい組織において、全社的な視点をもち、新しい専門能力を自ら学び、創意工夫することが求められる場合が多いのです。

今回の「学問のミカタ」では、日本企業に特有の「入社活動」についてご紹介しました。
キャリアデザインプログラムでは、1年次に東経大4学部の入門科目を学習し、2年生以降は各学部の専門科目を幅広く学べる「クラスター」という制度があります。また、実践的なスキル・能力を身につけられるプロジェクト活動(グループワーク)の機会も多くあります。こうしたプロセスを通じて、専門性を幅広く学ぶ力を養い、日本企業に入社してから広い視野をもって創意工夫できる人材に育ってほしいと願っています。


【学問のミカタ】
東京経済大学では、各学部で高校生向けに分かり易く専門分野の教員がブログを公開しています。ぜひご覧ください

経済学部ブログ「復興支援の経済学
経営学部ブログ「Amazonが覆しつつある常識・・・
コミュニケーション学部ブログ「アスリートは勝負をどう学ぶのか
現代法学部ブログ「裁判員って何をするの?
センター日記「ドイツの政治教育

2018年7月4日水曜日

課外活動で成長しよう!

梅雨も明け、毎日暑い日が続きますね。
サッカー・ワールドカップもあって
寝不足や夏バテをしていませんか。
新年度が始まって、3か月が過ぎました。
1年生も大学生活に慣れて、
部活・サークル、アルバイトで人間関係が広がり、
「だいがくせ~い!」を実感している人もいるのでは。

さて、突然、話は変わってキャリアデザインプログラム(CDP)が実施した
イベントをひとつ紹介します。

5月30日水曜日。
キャリアデザインプログラム(CDP)は、1年生を対象に
セミナー&ワークショップ『CDP with Google Womenwill』を開催しました。
テーマは《AI時代を生き抜くキャリアデザイン》。

このセミナー&ワークショップは、
「女性が直面するさまざまな問題を、
テクノロジーによって解決を目指す、
Googleのアジア太平洋地域全体での取り組み」
『Womenwill』の活動に賛同した東京経済大学が、
2017年にスタートしたキャリアデザインプログラム(CDP)の
課外活動の一環としてはじめた、今年で2回目のイベント。



通常の学部教育とは別に4年間を通じワークショップで
「自分の人生」や「キャリア」をみんなで考えるというのも
キャリアデザインプログラム(CDP)の特徴。
そのスタート・イベントです。

内容もさることながら、
お伝えしたいのは
学年を越えた学生の縦の繋がりの強さです
(とは言ってもまだ2期目ですが…)。



昨年の5月、このGoogleセミナー&ワークショップのあと、
1期生は有志による学生団体「TKU Unlimited」を設立。
10月には「働き方改革を考えるシンポジウム」を主催し、成功させました。
彼らの1期生としての団結心と2期生へ思いがなければ
今年のこのイベントも成功しませんでした。

何日も前からUnlimitedの1期生たちは、
1年生と一緒に取り組むワークショップを企画。
当日も1年生のグループにファシリテーターとして加わり、
1年生の学びを支えてくれました。


また今回のテーマにちなんで
学生たちのグループ発表にGoogleのテクノロジー「Google ドライブ」を利用。
これは驚きの技術です。

たとえば資料作成過程を何人もがPCを通じて
同時に共有できるというもの。
ひとつのシートを場所と時間を超越して
みんなで手を加えることができる優れものです。

サークルやアルバイトで忙しい学生も、
グループワークのために特定の場所に集まる必要がなくなります。
場所と時間を越えて「知」を共有し創造できる技術です。
いよいよテクノロジーは近代を越えてきました。
「ポストモダン」です。
そんなテクノロジーに大学初年度から触れられる学生が
とてもうらやましく思います。

さてCDPの1期生と2期生は
8月1日(水)と2日(木)
そして8月25日(土)と26日(日)の
オープンキャンパスのワークショップ体験で高校生の皆さんをお待ちしています。

またUnlimitedの活動としては
8月29日(水)に
発展途上国の少女の早期婚や望まぬ妊娠という視点から
女性の自立や自律、そしてキャリア形成を考える
映画「ソニータ」の上映会。

10月13日(土)は
『AI時代を生き抜くキャリアデザイン』をテーマとしたシンポジウム。
成功に向けて学生たちは準備を重ねています。

課外活動を通じて成長する
東京経済大学キャリアデザインプログラム生の
発信力を多くの方々、高校生に知っていただきたいものです。
2期生もなかなかのものです。成長が楽しみです。

さぁ、そろそろいつもの通り、学生から声が聞こえてきます。
「先生!話が長いっ!」

それは失礼しました。
以上、6号館2階、学習センターより特命講師の新井がお伝えしました。

2018年4月27日金曜日

CDPデイキャンプを実施しました


キャリアデザインプログラムの大きな特徴が、実際に学生が課題に取り組むことで学ぶワークショップを中心にすえた4年一環のキャリア教育です。

1年1期のキャリアデザインワークショップⅠ、2期のキャリアデザインワークショップⅡから、4年生のキャリアデザインワークショップⅦまで少人数によるワークショップ教育を通じて、就業力を高めるカリキュラムを構成しています。

このワークショップでは、単に授業を受け講義を聴くということでなく、学生がグループで課題に取り組むため、グループワークでの学びが重要になります。主体的に参加し、自ら学ぶことがワークショップ型教育の基本。これを体験するイベントとして、4月21日にCDPデイキャンプを実施しました。


前半は昨年度実施した企業体験プログラムであるジョブシャドウイングを紹介し、参加した2年生の体験を話してもらいました。なお昨年度実施したジョブシャドウイングについては、大学Webにて紹介されています。





後半は2年生のファシリテーションによる、 ワークショップを実施しました。ワークショップのファシリテーションを担当した2年生の島尚希君にコメントをもらいました。





私たちキャリアデザインプログラムの1期生は、2期生と交流の一環として4月21日にデイキャンプを開催しました。

2期生への企画としては1番大きな企画だったので準備も春休みから行いました。普段の授業では先生方が考えてくれるアイスブレイクやワークショップの内容を、先生方の意見をもらいながら自分達で試行錯誤を繰り返し検討しました。普段は授業を受ける側の私たちが今回は授業を作る側になるということでとても難しく、1つの授業を作り上げる楽しさと大変さを学びました。

そして当日、開始前にみんなで集まり円陣を組み成功を誓い合った瞬間は、私にとってもみんなにとっても忘れられない瞬間になったと思います。

学生企画が始まり早速準備してきたアイスブレイクが行われました。「私は〇〇です」というテーマで、一人ひとりが自分のことを時間内にグループのメンバーに紹介するというものです。私は司会という立場で全体を見ていましたが、どの班も明るく楽しそうな雰囲気で進んでいました。

次に、1期生がそれぞれのグループに分かれキャリアデザインプログラムで過ごした1年間を話す時間がありました。みんな直前まで「何を話そう」とか「時間持つかな」など不安を口にしていましたが、始まってみたらどの班も話が止まらず時間はあっという間に過ぎていきました。私も話が止まった班に行って話そうと思い話題を考えていましたが、ほとんど出番ありませんでした。

そして、ワークショップの終盤に差し掛かりグループワークの時間となりました。2期生が1期生の話をもとに「CDP生として目指す姿」、「それに向けてやるべきこと解決すべき課題」、「スローガン」を各班が考え発表しました。発表は2期生がおこない、緊張しながらも自分たちの考えた意見をしっかりと話す姿に、さすがキャリアデザインプログラム生だなと頼もしさを感じました。

私は司会という重要な役割を担ったことで時間配分や雰囲気の作り方など、様々なことを学びました。しかし全体を見回す立場として一番印象に残ったのは1期生のみんながとても堂々とたくましく見え、2期生のみんなも受け身ではなく先輩から何かを吸収しようと前のめりでデイキャンプに参加していた姿です。

1期生、2期生、先生方たくさんの人の協力によって開催された初めてのデイキャンプは本当に素晴らしい企画だと思っています。来年、そして再来年とさらにグレードアップしたデイキャンプを開催したいと思います。


2018年4月14日土曜日

履修登録相談会

いよいよ東経大キャリアデザインプログラム(略してCDP)も2期生を迎える春が来ました。
昨年に引き続いて、定員ぴったりの50名の新入生が入学しました。

その2期生を迎えるにあたって、1期生の有志が作る学生団体 TKU Unlimitedの学生たちが履修相談会を実施しました。隣の教室では教員による学習相談が行われ履修の相談を受け付けていますが、こちらでは2年生が1年生の相談にのるという行事です。履修登録期間の4月3日、4日の2日間にわたって実施されました。

 


大学に入ったばかりの新入生が、まず出くわすのがこの履修登録という作業です。履修登録では、今年履修する科目を自分で選び、自分で時間割を作ることになります。しかし高校生や受験生から大学生になったばかりの1年生は、どうやって科目をえらんでいいものやら、ということになりがちです。

特にこのキャリアデザインプログラムでは、1年生では学部を選ばずに入学し、2年生になる際に学部を選ぶという仕組みのため、4学部の学生とは履修の傾向も異なります。そのためCDPを1年間経験済みの2年生の登場というわけです。

この学生による1年生のための履修登録相談会を実施したのは学生団体TKU Unlimited。その代表である加藤美香さんからコメントをもらいましたので、ご紹介します。




入学式の翌日に、CDPの有志の1期生が、2期生を対象にした「履修登録相談会」を行いました。
企画した私たち1期生は入学当初、CDPという新しいプログラムには先輩がおらず、学生生活に不安を抱いていました。特に、時間割作成は、独特の組み方をしなければならないため、とても心細かった記憶があります。
そこで私たちは、CDPの縦の繋がりをもっとしっかりと作りたいと考えました。その繋がりの場であるTKU Unlimitedは、今年新たに2期生を迎えて活動していきます。
企画した相談会は、3つの「学生だから伝えられること」にこだわりを持った企画にしました。
1つ目は、履修した講義の感想や内容をメンバー内で共有し、実際に講義を受けてみた意見を2期生に伝えられるようにしたところです。私たちが履修して感じたことを伝えることに需要があると考えました。
2つ目は、私たちのプロフィールシートを作成したことです。ここには、1年生の時の時間割を記載し、実際の例を見て参考にしてもらえるようにしました。時間割の組み方も人それぞれなので、様々なパターンを提示することで、自分オリジナルの時間割を作れるのかなと考えました。
3つ目は、CDP生の初めての交流の場を作ったところです。冒頭に挙げた「不安」を解消するポイントは、実際の声を聞き、質問できる事です。やはり、実際に経験した人の話は心強いものですから、どうしてもこの相談会には思いがこもりました。
当日は想定以上の新入生に相談に来てもらえました。
やはり、経験談を聞きたいというニーズがあったのだと思います。1期生を増員し、とても活発的な雰囲気の中、無事に終了することが出来ました。また、早期に1期生と2期生が交流できたことにより、TKU Unlimitedの活動がスムーズにも行えるようになりました。
私からのメッセージになりますが、CDPの伝統行事として、これからも学生のアイデアと心のこもった履修登録相談会が続いていけばいいなと思います。